IMG_2610.JPGfd821252031fb8dc33dc09482d00736f.jpg詩集「豺(ヤマイヌ)」M.jpg

光冨郁埜(いくや)の詩のサイト

詩という生活

詩と評と狼編集室と雑記・日記等です。


壁にも 空いた、うすぐらい.jpg

光冨郁埜詩編
うしろ背

そのうしろ背の壁に
白い顔が浮かびあがっている
まっすぐ見ている眸に
群れのひとたちの歩き出しに
くすむ羽をすぼめている

行き交うひとたちには気づかれない
そのあおざめた空には
遠くうすくのびる雲が逃れている
そのうしろ背が舞っている
小さい点の旋回に
羽根の白さが落ちていく

空のペットボトルのなかに
乾いた風の音がこもっている
胸のこげた臭いを
コートの襟に隠して
眉をひそめてさまよっている
街角で配りものをする肩に
触れてはわるいから

空が雲に覆われて
湿り気をふくんだ風に
ひとが通り過ぎても気づかれない
街の表示がはがれ落ちた死角で
影がひとついなくなった

靴のかかとを気にして
膝をまげて深い帽子を落とす
その曲げたただひとつの背に
街の空が引っ掻き傷をつくる

還っていくひとたちには気づかれない
建物の影に消えていく
うしろ背にまたたく光がまぶたを開く


ひとの声


会うことのないひとたちの声
こころの輪郭(かたち)の外がわから
(空腹と眠気とにさいなまれながら
物をたたく乾いた風の音と
建物をきしませる低い空がおおう

ここから離れた場所
見知らぬひとの
(いや生まれる前にどこかであった顔かもしれない
その裾にふれてみる

ひびわれた街に
いく層もの
窓に映るひとたちの輪郭(かたち)
絶えまない車の列に
(これは現在(いま)であろうか、それともずっと過去(まえ)であろうか
寸断されては、また繋がっていく

枯れた枝先に空がささる
そのかたむく並木道に
茶色の手袋が置き忘れられて
ひとの抜け殻がうまれている

会うことのないひとたちの
それぞれの温もりに
そっと指をおいてみる
(その先にある駅の向こうまで
(その先にある駅の向こうまで


大きな翼の影に日が落ちて
(そむかれる、その白い顔に両の手をそえる

胸に手を置きながら
わたしは気づかないふりをして
会うことのないひとたちの声をまとう

詩集「豺(ヤマイヌ)」M.jpg
光冨郁埜詩集『豺(ヤマイヌ)』(狼編集室)より




inserted by FC2 system